2010年8月5日木曜日

Hooray Kobayashi! 小林ガンバレ!

今年の独立記念日は、インフルエンザですっかり寝込んでいたということもあり、毎年恒例のNYコニーアイランドでのホットドッグ大食いコンテストについて完全に忘れてしまってました。今日の新聞(以下)で、そのホットドッグコンテストの常連参加者、小林君が実は逮捕されてたというのを知ってびっくり。


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早食い元王者・小林さん、6カ月間の保護観察処分 NY
【ニューヨーク=田中光】7月4日にニューヨークであった毎年恒例のホットドッグ早食い大会の会場で、警察官らともみ合うなどして公務執行妨害容疑などで逮捕・訴追された元王者の小林尊(たける)被告(32)の裁判が5日、ニューヨーク市内の裁判所であり、6カ月間の保護観察処分を言い渡された。裁判が終わった後、小林選手は笑顔で「うれしい」と述べ、「仲間たちとステーキを食べたい」などと話した。
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ことの状況がよくわからなかったので、アメリカのメディアを検索してみた。時系列(古い順)に紹介すると、

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No Kobayashi At Coney Island Hot Dog Eating Contest This Year?
7月4日の大食いコンテスト直前、小林が今年は参加できないかも、と報じる記事。問題の詳細には触れず、「メジャーリーグ・イーティング(当ホットドッグ・コンテストに参加できる人たちを管理している団体?)は、小林と契約の合意を目指しているが、契約交渉は暗礁に乗り上げている(Major League Eating has sought to arrive at an agreement with Kobayashi, but contract negotiations have reached an impasse.)」とだけ報じている。

Kobayashi Arrested at Coney Island Hot Dog Contest
7月4日当日、小林がホットドッグコンテスト終了直後、ステージに乱入し警官ともみ合いになったため逮捕されたことを報じる記事。この記事には、「小林(32歳)は今年はコンペティションに参加しなかった。その理由は、小林がメジャーリーグ・イーティング(NFLの大食い競技版)との契約に著名することを拒否したためである。(The 32-year-old Kobayashi did not eat this year because he refused to sign a contract with Major League Eating -- the fast food equivalent of the NFL. On his Japanese-language blog, he said he wanted to be free to compete in contests sanctioned by other groups.)」とある。さらに、「契約上の紛争があるため、彼ら(メジャーリーグ・イーティング)は彼(小林)に自由を与えなかった、と小林の通訳者マギー・ジェームスは語った("There's a contract dispute, so they weren't giving him his freedom," said Kobayashi's interpreter, Maggie James.)」とも報じた。

Kobayashi Arrested at Coney Island Hot Dog-Eating Contest
逮捕2日後の7月6日付けの、小林逮捕についての詳細記事。これには、「小林によると、主催者(メジャーリーグ・イーティング)は、『僕から自由を奪おうとした』(According to Kobayashi, the organizers were "trying to take away my freedom." )」と報道。

Kobi's dogged fans
Says people egged him onto the stage

同7月6日付けのNew York Postの記事はさらに興味深い。乱入事件の模様について詳細に報道している。「小林は、(乱入事件は)コンテストを台無しにするために仕組んだことではないと主張している・・・。群集が小林もコンテストに参加するようけしかけ始めたので、それに単に乗っただけとザ・ツナミ(小林のあだ名)は述べている。しかし、それを疑う人物は、小林が英語を話せないことを挙げ、小林がそのときの群集の掛け声をどれほど理解していたかは疑わしいと述べている。(He insisted he didn't set out to ruin the contest... When the crowd starting egging him on to join in, The Tsunami said, it was simply a case of him taking the bait. But one skeptical source, noting that Kobayashi doesn't speak English, questioned how he understood the chants.)」と報道。さらに、「情報筋によると、「彼に食わせろ」という掛け声は、小林がステージに駆け上ってからずいぶんと後になって始まったと付け加えている。(The source added that the shouts of "Let him eat!" started well after Kobayashi ran to the stage.)」とも。

記事の後半では、小林の弁護士マリオ・ロマノによると、小林はステージに上るよう呼ばれたという。「Nathan's(コンテストの主催者)の警備員たちが小林を名前で呼び、彼と写真を撮っていた、とロマノ弁護士は述べており、一人の従業員はステージに飛び乗るようジェスチャーで示したとも言う。「小林は早く、そして皆さんの前で食べたかっただけなのです。彼は競争に参加したかったのです」とロマノ弁護士は言う。しかし、この日曜に優勝ベルトを保守することに成功したチェスナットは、小林の言い分は嘘っぱちだと言う。「ヤツは自分には特権があると思い込んでるのを知ってるが、やつは3年連続して負けてるじゃないか」とチェストナットは言い、さらに小林は4回連続して自分に負けることに耐えられなかっただけだとも付け加えている。(His lawyer, Mario Romano, said Kobayashi had been invited up to the stage. "Nathan's security people were calling him by name and taking pictures with him," Romano said, insisting that one worker gestured for him to hop onto the platform.
"He wanted to eat quickly and publicly. He wanted to compete," Romano said.
But Chestnut, who retained his Mustard Yellow Belt on Sunday, said Kobayashi's tale is baloney.
"I know he thinks he's entitled to privileges, but he's lost three years in a row," said Chestnut, who added he believes Kobayashi just couldn't bear a fourth straight loss to him.)」。

Judge Drops Charges Against Kobayashi, Hot Dog Champ 
(小林への起訴が取り下げられたことを報じるウォールストリートジャーナルの記事。本日付)
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たかがホットドッグの大食いコンテストなのに、チェストナッツなんて憎悪丸出しのすごいことになってるよねー。弁護士まで登場するし、留置場に入れられる事態になるなんて、ことが大きすぎない?だけど気になったのが、アメリカのメディアの報道のしかた。事の発端は、小林君とメジャーリーグ・イーティング(MLE)との契約交渉の紛争が火種でしょう?なのに、それについて詳しい報道がほとんどない。しかも、最初の記事は、MLEを主語にして、「小林と契約の合意を目指しているが、契約交渉は暗礁に乗り上げている」という書き方で、MLEは善意で交渉しようとしてるのに、小林君のわがままで交渉が頓挫しているような書き方。

その次の記事も、小林君が今年のホットドッグコンテストに参加できなかった理由を、「小林がメジャーリーグ・イーティングとの契約に著名することを拒否したから」という書き方。これじゃー、普通の読者は小林君が悪者だと思うよー。

僕もアメリカのメディアの記事だけじゃ、事の本質が見えない!と思って、日本語で検索。すると小林君本人のオフィシャル・ブログに行き着いた。大会前日7月3日付けの小林君のブログに、問題の本質が書かれていました。以下に抜粋します。

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JULY 03, 2010

すべての人の独立記念日 My freedom

気が滅入るほど長く続いた戦いがやっと終わります。

交渉期間中、嫌な思いもたくさんしました。

昨年、一昨年は契約の期間中でしたが、契約での、彼らの独占的権利が強すぎると感じ、弁護士をたてて何度も契約の改正を試みていました。

彼らにもメリットがあるような、Give and Takeの話し合いをしたつもりではいたのですが、全く契約内容の改正をすることはできませんでした。

契約期間がおわり、今年二月には契約がない状態で交渉できるようになったのですが、これまで以上に厳しい契約を迫られました。

初参加から数年間は契約なしで出場していま事実から考えると

年をおうごとに契約内容は厳しくなっている実感があります。

ホットドッグコンテストは、世界の人々が僕を知るきっかけになった大会です。

この大会でこれまでの世界記録を二倍に塗り替えることによって、僕はたくさんの人に知ってもらえるようになりました。

そのため、僕はホットドッグコンテストに大きな思い入れがあります。

身体が続く限り、出場し続けていたいと思っていたのですが、今年の出場の許可を得るためには、これまで以上に厳しい契約書にサインしなくてはならない状況です。

メディアの前でホットドッグを食べることができませんし、彼らの許可なくテレビに出演して、早く食べるパフォーマンスを披露したすることもできません。

許可なく、早く食べること、多く食べること、人と競争すること、動物と競争することが、一年間できないのです。

さらに、ジャッジやタイムキーパーなどもできません。

法律的な立場からではなく、個人的な実感として言わせてもらうと、なんにもできないのです。


ネイサンズの大会の出場者の中には、それが可能な人もいるのですが、僕の契約書では不可能になっています。

僕のビザはO1、Extraordinary Ability(たぐいまれな能力)に対してアメリカ国家が労働を許可したビザです。

僕の桁外れの能力といえば、早く食べる、多く食べる能力ですから、食べる能力や食べる行為自体を大幅に制限されてしまう契約内容では、ビザが泣きます。

もちろん、お金なんて全くいらない。

出場させてもらえるなら、全くお金はいらないと、弁護士を通して伝えてあります。

今年は、初めてアメリカでの生活をはじめて、大会と同じホットドッグで練習ができましたので、大会の出場が楽しみで、もちろんまた、世界記録を更新して優勝する準備はできています


ですが、僕の優勝や、出場自体を拒んでいるようにさえ思ってしまう、厳しい契約内容を受け入れることができずに困っています。

僕にkとって本当に大切な大会ではありますが、独立記念日に奴隷契約書のようなものにサインするなんて、絶対したくありません。


独立記念日に、自由を手に入れてホットドッグコンテストに参加できることを望みます。

応援よろしくお願いします。
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彼、アメリカに移住してきてるんだね。しかも、Extraordinary Ability(たぐいまれな能力)を根拠とするO1ビザを取得していたなんてすごい~。大食いもたぐいまれな能力なんだね。

しかし、どんどん厳しい契約内容を迫ってくるネイサンズは、やっぱりガイジンである小林君が優勝するのを妨害する意図があるんじゃないかなぁと思わずにはいられないよね。なのにもちろんそんな点には露も触れず、小林君が契約書を拒否したのがあたかも問題の本質であるような報道をするアメリカメディア。MLEがかたくなにより厳しい制限を契約書に織り込もうとして、それを小林君に押し付けようとしていたことを深く掘り下げて報道する記事は一本もない。

日本人である小林君に対するメディアや傍観者たちの差別は、アメリカに長年住んでる日本人として、直感としてあると言ってしまっていいでしょう。所詮、日本人はアメリカでは有色人種で差別の対象になるのです。特に東海岸、ニューヨークともなると当然。アメリカの独立を祝う7月4日のホットドッグコンテストで、毎年外国人の日本人、しかも痩せて華奢に見える彼が、巨漢・長身の白人たちを押しのけ優勝するという姿は、アメリカ人たちにとっては屈辱だったんでしょう。

ただ、こんな差別は今に始まったことじゃない。それは第二次世界大戦中の日系アメリカ人の強制収容所に代表されるように、この国に(ま、どの国にも程度の差はあれありますが)深々と根付く差別思想は今も健在ということでしょう。

小林君の置かれた立場、苦労は十分わかってるつもり。だけど一言いわせてもらうと、やっぱり今回、警察沙汰になってしまったのはよろしくないですね。小林君が、MLEの不当や不平等を不満に思って、感情のほとばしりを抑えられなかった、というのは分かる。「平等の国アメリカ」というけれど、アメリカ人はうわべではきれいごとを並べることに長けた人たちなのですよ。「平等の国アメリカ」というのも、諸外国に対するPR、もしくは強者が弱者を欺くための欺瞞である面が否めません。だって富裕層と貧困層の格差が先進国で最大の国アメリカが、なぜ平等の国の代表だと思ってるのか?契約や交渉にいたっても、情けや同情は完全に排除して日本人の想像をはるかに超える非常・冷徹なまでの論理攻めで進めるのがアメリカ流。

アメリカのビザを取得して、今回が始めてのホットドックコンテスト参加だったと言う小林君にとって、やっぱりアメリカで生きていくとはどういうことか、いきなり身につまされた事件だったと思う。だけど取った行動が、義理と人情の国、日本をそのまま引きずって頭に血が上ってしまってたのでアメリカではファウルになっちゃた感が強い。大食いチャンピオンとして、またその道のプロとして自覚があるのであれば、交渉の問題は交渉の場で解決するべきだった。感情のゆらぎに飲まれてしまうのは、プロとしては未熟。ましてや逮捕なんて論外。

僕なりに考える、アメリカで生きていくための心得は、

1.「平等の国アメリカ」なんていう理想論は捨て去る。この国は、多人種・多民族国家でありながら、いまだに白人が主導する差別のはびこる国であることを肝に銘じる。

2.それでもなお、この国のいいところは、そういう差別が残りながらも、正当に、そしれ論拠をしっかり持って交渉・主張すれば、認められることが多いということ。短気を起こして感情に走るのは差別主義者の思う壺。教養がなく、自分を制御できない野蛮で下等な有色人というレッテルを張られて終わり。

3.交渉・契約については日本の義理・人情のやりかたでは通用しない。アメリカ流を経験して頭に叩き込むべし。

4.英語ができなかったら話にならない。野球選手も、英語ができないために人気がいまひとつ伸びなやむ、なんていう話はざら。New York Postの記事にも、「英語のできない小林が群集のコールを理解できたのか疑わしい」という記事があったように、英語ができない人は平等な権利を与えられた人として認められないのがアメリカ。

英語ができず、通訳を立てて交渉の場に臨むのは、その時点で相手に相当なめられる。今回の事件についても、小林君の生の声が全然、アメリカのメディアに伝わってない。プロとしてアメリカで活動するのだったら、英語で自分のことを主張してPRしていくことが必須。ファンを広げ、彼らの心をつかむには、ホットドッグを食ってただけではダメ!日本式の「言葉じゃなくて行動で示します!」っていう浪花節はアメリカでは通用しません。言葉で説明できて何ぼの世界。特に、今回みたいに状況が複雑で、自分が置かれた立場や不満を明確に言葉で説明できなければ、敵の立場が前面に出て、自分は悪者としてでっち上げの記事が書かれ、それがまかり通ることになる。

小林君のブログも日本語だけなのが残念。

追加:今日、ステューに小林が逮捕されたことやネットで彼へのバッシングと応援の両方の声があがってることを伝えたら、「僕はコバヤシのファンだけどなぁ~。コバヤシって名前もカッコイイしさ。あんなに細身でよくあそこまで食えるよね」とのこと。ステューの意見は一白人アメリカ人男性のコメントとしては有効だけど、どれほど代表的な意見かは・・・。でも、小林のファンであるアメリカ人が多いのも事実。身近にも一人いました。
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